いや~、このドット絵と横スクロール!
懐かしいなー!!…あっ、死んだ。
こんにちは、ネルソン水嶋です。
はじめて買ったゲームは「ドラクエ4」と「スーパーマリオブラザーズ3」です。
これは、昨年11月に任天堂から発売された「ニンテンドークラシックミニ」。一見するとファミコンですが、60%ほどのミニサイズ。テレビにつなぐだけで昔なつかしのファミコンゲームが30タイトルも遊べるというゲーム機です。
今はスマホで気軽に外でゲームができる時代ですが、「ゲームは家でやるもの!」というイメージを抱いている方もまだまだ多いのではないでしょうか? かく言う私も小中学校時代はゲーム大好キッズで、放課後に校庭でサッカーに汗を流す同級生を尻目にゲーム漬けの日々を過ごしました。やりすぎで親から叱られ、ゲームを手の届かない場所に置かれた人は私だけではないはず。
「うん、あったあった」と頷いている……(20代後半~40代と思われる)そこのあなた!
いいえ、頷いていない人も含めて!
こーーんな!
分厚い辞書みたいな本に見覚えはありませんか??
その名は「大技林」…!!
大技林とは、1989年から2000年まで発行された、当時発売中のあらゆるハード機のゲームタイトルの「裏技」(本書での呼称は「ウル技(ウルテク)」)が収録された書籍。辞典のような名前も見た目も国語辞典「大辞林」のパロディ。元は徳間書店が発行していたゲーム雑誌『ファミリーコンピュータMagazine』にウルトラテクニックとしてゲームの裏技を紹介するコーナー企画で、それが集積された後に定期的に付録としてつくられ、その人気ぶりからさらに過去の内容を収録したものが数度に渡り書籍化された。
五十音で裏技がビッシリと載っている!
クラスでだいたい一人はハード機全種を持っているゲームマニア的な同級生がいて、家に遊びに行くと高確率で置いてあったこの本。ズッシリとした重さと膨大な情報量に圧倒されながら、自分が持っているゲームの裏技を探すんですよね。ほんと懐かしい。名前は覚えておらずとも、存在は覚えている人も多いはず!
それにしても、大技林の裏技はどうやって見つけていたんでしょうか? 何しろ「裏」ですから、簡単に見つけられるとは思えません。
裏技といえば、「無敵化」や「ステージのショートカット」などがありますが、いずれも早くクリアを目指すという時間の節約。裏技の本質を探ることで、節約の極意を見つけることになるかもしれません(ならないかもしれません)。
そこで……!!
大技林・監修の「金田一技彦」氏に会ってきた
大技林シリーズに「監修」として必ず名前が載っている人物、
金田一技彦さんにお会いして来ました。
いやぁ、いやぁ!……まさか会えるとは思ってなかった。だって、大技林を当時から知っている世代からすると「伝説の人」ですよ。それが、まさかTwitterをやっていて、ふつうに連絡がつくとか思わないじゃないですか。情報化社会サイコー。
なお、金田一技彦さんの素顔はこれが本邦初公開です。大技林、裏技(ウル技)、昔なつかしのゲームのエピソードが山ほど出てきました。
私も含めた、30代以上のおっさんは必見ですぞ~!
金田一技彦、実はチーム名だった!?

改めて、金田一技彦さんで間違いないですよね?

はい、初代になりますが

『初代』

金田一技彦は、チーム名みたいなものなんですよ

えっ? えっ…えっ!?

当時のファミマガ(ファミリーコンピュータMagazine)では、裏技のコーナーを担当する人間が複数人いまして、10人いれば金田一技彦は10人の総体。私は初期段階の班長という立場なんです
衝撃の、事実。
金田一技彦、個人じゃなかった。

じゃあ、ファミマガに『金田一技彦』として載っていたイラストの人物は誰ですか!?

それは、金田一技彦の著者近影という形で誌面にイラストを載せる話になったときに、イラストレーターの方が、当時の班長だった私をモデルに想像で歳を重ねて描いたものなんです

そういうことーっ……

ちなみに、私の名前は三浦です

三浦さん。これからそう呼ばせていただきます
三浦さんと、当時の三浦さんがモデルの金田一技彦のイラスト。うん、分かる気がする。
これ、当時のファミマガや大技林を知る方はずっと一人だと思っていたんじゃないでしょうか? この話は冒頭のニンテンドークラシックミニの発売を記念して発行された書籍『ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータMagazine』でも明かされているそうで、それまでは関係者しか知り得なかった事実らしい……。
ということは今、地球上には数十人の金田一技彦が存在するということになるのか。
なんかカッコイイなそれ。
大技林の裏技(ウル技)はどうやって調べていたの?

早速、本題なのですが、あの裏技はどうやって調べていたのですか?

読者からのハガキと、スタッフによる調査ですね

えーっ、読者が見つけられるものなんですか?

基本的にはバグ(プログラムの想定外の誤り)でたまたま見つけたものです

日に……いや、月に何通ほどのハガキが?

どうだったかなぁ。でも、スーパーマリオブラザーズの発売当初は一日に何百通とか来てましたよ

何百! しんどい! それを一通一通、見ていくんですか?

はい。でも、ほとんどは技とは言えないんですよ。同僚と話しながら使えるかどうか分別していくのですが、ハッと気づくと同僚が読まないまま捨てていたこともありました(笑)

ダメじゃないですか!(笑)
「あの技、載ってるかなー」と探す三浦さん。が、あいにく、取材時点で入手できていた99年版の大技林にはプレステ以降のゲームしか収録されていなかった。
ゲームのプレイヤーはやはり子どもが多く、ハガキの送り主もほとんどが子どもだったとのこと。ただ、バグではなく複雑なコマンド(一時停止中に複数のボタンをある順番で押すとプレイヤーが無敵になるなど)の投稿もあり、偶然見つけられる訳がなく、「大人がゲーム開発用のツールで解析して発見したのだろう」というものもあったのだそうだ。当時は全国各地で、子どもも大人も必死に裏技を探していたと思うと胸が熱くなる。

分別の結果、使えそうだと思ったものはどうするんですか?

ゲームごとの担当者が実際に確かめます。でも、もし再現したらそれはそれで大変で、ファミマガに掲載しなければなりませんから。ゲームによってはポーズ(一時停止)ができないものもあるので、強制停止ができる開発用のハード機で再現させて、その状態を保持してカメラマンに来てもらったら暗室で撮影です

カメラマンに来てもらう?もしかして常駐していないんですか??

はい、いつ裏技が再現できるか分からないので。出てきたら呼びます

うーん、楽しそうだけど……絶対大変だ!

当初は毎号ウル技50個といったように数を決めていたんですけどね。でも実際にそれだけの数のバグが見つかる訳はないので、当初は技とは言えないものもありましたよ。マリオがコインの上に立つと股間がキラキラするので『キンタマリオ』!とか

あははは! 全然裏技じゃない!
▲ その筋では有名なキンタマリオ。YouTubeにも複数の再現動画が上がっていた。

あとはメーカーからの情報もありました

え、ゲームメーカー自らのリークですか!?

正式なものですけどね。でも、何日以降に公開してほしいと指定される場合も

持ちつ持たれつという感じですね。噂に聞く、芸能事務所と週刊誌の関係みたい……
有名な裏技とウソ技

有名な裏技ってありますか?

そうですね……グラディウス(有名シューティングゲーム)の無敵コマンドが有名です

すみません、世代から外れており……それはどのような?

ゲームプレイ中にポーズして、上上下下左右左右BAでフルアイテム化というやつです

▲ 『超絶大技林 2011年秋完全全機種版』より

あー、似たようなコマンド、私がやっていたゲームにもありましたよ! スーファミのドラゴンボールの格闘ゲームで、オープニングで入力すると隠しキャラが出るんですよ。ブロリーが『カカロットォ』って言うやつです
※あとから調べたところ「上・X・下・B・L・Y・R・A」でした、全然違いました。

▲ 『超絶大技林 2011年秋完全全機種版』より
▲カカロットォで選択キャラクターにブロリー追加

これが後のコナミコマンド(コナミの多数のゲームに共通する隠しコマンド、「世界で最もよく知られている隠しコマンド」としてギネス記録に登録されている)になります。ストリートファイターの技コマンド(下右下右+Aで波動拳といった技の入力コマンド)も、もしかしたらそこからの発想かもしれませんね

▲ 『超絶大技林 2011年秋完全全機種版』より
▲マリオの階段とノコノコを利用した無限アップはあまりに有名
ファミマガでは一方で、嘘の裏技、ウル技ならぬ「ウソ技」というものも掲載。それは、「ゼビウス」という名作シューティングゲームで、攻撃しても壊れない敵に256回攻撃すると実は倒せるという逸話から発想した企画(256発も攻撃できる時間はないので嘘なのは明らか)。が、このウソ技は、何も読者を騙そうというものではなく、どれが嘘かを当てるクイズ企画で、さらに単なるクイズではなく仕事の効率化を図るものでもあった。

ウル技についての問い合わせが、とくに子どもから多かったんですよ

『これはどうやったらいいの?』とかですか

はい。子どもが下校する16時から18時まで電話対応していたんですが、そのゲームの担当者がいなくて答えられないときもあって

だとしてもその2時間は対応する前提って、めちゃくちゃ良心的ですね……

ウソ技はその対応策という意味もあったんです、『クイズだから答えられません』という

あー、なるほど!

少なくともクイズ期間はそれで対応しないで仕事に集中できる、という利点もありました

上手くできてますねー
一方で、他誌によるパクリを防ぐという意味も。実際に、不憫にもウソ技をそのまんま掲載してしまった雑誌もあったという(ファミマガにとってはしてやったりだが)。

ウソ技といえば、私の世代では『ドラクエ5の裏ボスのエスタークを何回かのターンのうちに倒せれば仲間になる』というものがありました。最近までずっと信じていたんですけど、この取材に際して改めて調べたらウソだったってことが分かって。あれももしかしてファミマガのウソ技だったんですかね?

スーファミですよね? だったらウソ技はやっていないので、違いますね

出自が謎ですね……あの怪情報に踊らされた子どもは多いはずです(笑)
同世代ならご存知の方もきっと多いこのウソ技、実はプレステ2のリメイク版では息子の「プチターク」というキャラクターが仲間になる。スクウェア・エニックスによる、嘘を受けての粋なはからいのようだ。嘘がまた新作のゲームに継承されていくって、ミュージシャンからファンへのアンサーソングのようなおもしろさがあります。
三浦さんの今と、「裏技」を取り巻く時代の移り変わり

今、三浦さんは何をされているんですか?

ファミマガで1985年から5年勤めたあとは、放送作家の事務所に所属しています

おぉっ、今も物書きのお仕事なんですね

ゲームの攻略法の記事も書いていますよ

金田一技彦は今もご健在か~!

ただ最近は、攻略法の記事を知ってか知らずか、ゲーム側もルールを変えたりするので、(とくにバグによる)裏技は成立しなくなっちゃいましたね。メディア側も『変わったよ』と更新はできますが

あーそうか……パッケージじゃないオンラインゲームだといつでもいくらでも変えられるから

そうですね。それに、最近は攻略法がなくてもクリアできる前提でつくられますし

ゲームのユーザー層が確実に広がっていますもんね……元ゲーム少年としては、少し寂しいような
三浦さんが書かれた「キャンディクラッシュ」(世界的人気のパズルゲーム)の攻略記事」。筆者名は、「金田一ワザ彦」! 「技」ではなく「ワザ」(片仮名)である理由は、「一応、権利上気を使って」とのこと。チームというか、もう三浦さんが事実上の金田一技彦でいい気がしてきた。「キャンディクラッシュ2315面、キャンディソーダ1330面、キャンディゼリー720面攻略済(2017年2月14日現在)」とのことでしたが……きっとすごいんだろうな(やらないので全然分からない)。

それと、二人の子どもが通う小学校でPTAの会長をやっています

PTAの会長!? かつて子どもたちを熱狂させた立役者の一人が、PTA!

先日行われたPTAの新年会では、品薄のニンテンドークラシックミニを必死で手に入れてじゃんけん大会の景品にしました

金田一技彦だからこそ出てきた発想ですね……(笑)。今のお父さん世代が三浦さんの正体を知ったら驚くんじゃないかな。大技林を持ってた人、保護者に絶対いるでしょ!『えーっ、会長が金田一技彦!?』って

今日は、どうもありがとうございました!とても楽しいお話を聞かせてもらいました

こちらこそありがとうございました
以上、初代・金田一技彦氏こと三浦さんのインタビューでした。
ゲームっ子だった世代の皆さんは、湧き上がる思い出もあったのではないでしょうか。本当はまだまだおもしろい話が山ほどあったのですが、長くなるので箇条書きでご紹介。
・今では当たり前に使われている「攻略」はファミマガが定着させた
・ファミマガは任天堂公認の雑誌で、徳間書店からの提案によるものだった
・任天堂と徳間書店は、アメリカ進出時に合弁会社をつくるほど仲が良かった
・徳間書店はファミマガや大技林のみでなく、ファミコンのゲームの説明書や攻略本も編集および制作
・攻略本によく載っている横長のマップは、ブラウン管の画面を撮った写真をつなぐという、かなりアナログな手法だった
・ニンテンドークラシックミニにはFF3が入っているが、当時の電源を入れるタイミングでの裏技がゲーム起動のタイミングで再現されていて感動した
・ファミマガの付録だった大技林は、人気タイトルがない時期の売上強化のテコ入れとして始めたもの
・人気タイトルの発売後しばらくはそれに関する裏技の問い合わせが集中するので、職場内に回答例を書いた張り紙を貼って情報を共有していた
・当時はゲームライターという職業もなかったため、ウル技のチームは学生アルバイトばかりだった。印刷所への入稿時間の関係で泊まり込みが多く、バブルの頃だったため終電を過ぎても東京から千葉までのタクシー代が出た
・ドラクエなどの情報は、キャラクターデザインが鳥山明という関係上、少年ジャンプでの掲載が優先された。ほかの雑誌では掲載は4ページまでと指定されたため、折りたたんだ状態では4ページだが開くと実質16ページ分の新聞のような形式で情報を載せた。すると、次回からは面積まで指定された
このほかのお宝エピソードも、『超実録裏話 ファミマガ 創刊26年目に明かされる制作秘話集』に収録されています。当時の空気を知っている方は絶対に読んだほうがいい! 間違いなくおもしろいから!
とくにファミコン世代には垂涎モノのエピソードが目白押し!
さいごに
いやぁ、おもしろい取材だったなーー。当時の私、いやきっと多くの子どもたちにとって、「裏技」って怪しい魅力があったと思うんです。
まるで都市伝説のように、嘘か本当か分からなければもちろん情報元も分からない。それを試してみて目の前で再現できると、いつも遊んでいたゲームがまるで違った、ギョッとするような表情を突然見せてきたような。よく知った家の裏庭からツチノコを発見したような驚きです(たとえが下手です)。
今はインターネットでなんでも調べられる時代だから、不意に発見することはおろか、情報元が分からないということもほぼありえない。ほとんどのゲームもパッケージからオンラインに移行して運営側があとからルールを変えられる。「裏技」に対する魅惑も感触も、今ではきっともう「再現」できないと思うとちょっと寂しくもあります。

あ、そういえば

はい

キャンディクラッシュをやっている方には良い情報ですが、1476面はアイテムがたくさん出てくるすごくお得なステージなんです。数字まで覚えていない人も多いだろうから、よかったら書いておいてください
ゲーム側の対応により裏技や攻略法が意味をなさなくなったとしても、ゲームプレイヤーにとってオトクな情報を発信する。そんな三浦さんの姿勢に「金田一技彦は永遠に不滅」という言葉が思い浮かびました。
ゲームの裏技を見つけだすことは、もちろんゲーム攻略までの時間を短縮することに繋がりますが、「もしかしたら、こうすればお金や時間を節約できるのでは?」という生活に潜む節約の裏技を探す姿勢にも通じるものがあり、あなたを無敵に一歩近づけてくれるのかもしれません。