みなさまこんにちは、ゆるぢえさんライターの岩城です!
私は京都で只本屋(ただほんや)というフリーペーパーのお店を運営しています。
フリーペーパーってその名のとおり無料で読めちゃうんですが、その中身はさまざま…!
限られた人へ向けたコンテンツでも深〜〜〜く濃〜〜〜く紹介していたりと、
本屋さんにはない魅力があってめちゃくちゃおもしろいんです。
そんな、無料で面白いフリーペーパーをお伝えする「フリペひとめぼれ」。
今回取り上げるのはこちら、TENTONTO(テントント)。
黄色い表紙が印象的なこちらのフリーペーパー。
少し派手に見えるカラー、でもなんだか目に優しい色合いでかわいいイラストだし、ペラペラでさくっと読みやすそう。
しかしその中身は、なんとASDやADHDといった、いわゆる”発達障害”の方々のためのフリーペーパーだったんです。
おしゃれなイラストが散りばめられた誌面。
テントもよく出てくるけどセンサリーデザインと関係ありそう?
「マインクラフト」も”発達障害”と関係あるらしい!?
他にも真面目なテーマを取り上げているフリーペーパーは数あれど、
こんなにデザイン性があってかつシンプルなフリーペーパーは今までありませんでした。
しかもこれをASD、ADHD当事者の方々が中心になってつくっているというから驚きです…!
私は家族の職業柄、児童心理学や発達障害についての本がたくさんある環境で育ったんですが、こんなにポップなカラーでデザインされたものは一つとしてありませんでした。
ASD、ADHDについて私はまったくの初心者なんですが、いったいどんな意図で制作されているでしょうか…?
ASD & ADHD Magazine TENTONTO
TENTONTOを製作しているお二人、ユミズタキスさん、ユタニさんへ詳しくお話を聞いてきました!
△ 写真左から、編集長・ユミズタキスさん、ライター・ユタニさん。
フリーペーパー・TENTONTOって?

まずはフリーペーパー・TENTONTOについて伺ってもいいですか?

TENTONTOというのはASD & ADHD Magazineというタイトル通り、発達障害のASDとADHDの当事者のためのフリーペーパーです。
お役立ち情報とまではいかないんですが、発達障害について知ってもらうことや、発達障害ならではの感覚の違いがあることを紹介しています。

発達障害とはこういうものだ、という正確な情報が日本ではまだあまり広がっていない現状があって。メンバーの中にいる当事者の経験に基づいた話をたくさん発信していけたらなという考えで活動しています。
なぜフリーペーパーを作っているの?

TENTONTOは、私たちはフリーペーパーというよりも作品…ZINEのように作ってるんです。
こんなにおしゃれで面白いものが、無料で読めてしまう。すごいでしょ。

いや、本当にすごすぎます。
只本屋の私から見ても、TENTONTOは読み手を考えたボリューム感で手に取られやすく、かつフリーペーパーっぽくないデザイン性に優れてて、非常にバランスが良いお手本のようなフリーペーパーです。
しかしそこで疑問なのが、こんな完成されたコンテンツなら、毎回発行しなくてもwebで十分見てもらえるのでは?ということ。
そう、実はTENTONTOはwebもすごい!
おもしろいコラムやツイキャスなどオリジナリティー溢れるコンテンツを毎日更新されています!!
TENTONTOのWebサイト

こちらのフリーペーパーはどれくらいの頻度で、何部発行されているんですか?

年4回の発行で、毎号だいたい2000部を東京を中心に全国で配布しています。

2000部もですか!それに加えてwebの毎日更新。
めちゃくちゃ忙しいと思うんですがそれでも続けているのはやっぱりフリーペーパーの反響が大きいのでしょうか?

もちろん反響が大きいことは続けている理由の一つです。
しかし、webとフリーペーパーだとやっぱり見てくれる世代も違うし、webは症状を自覚して、検索などで情報を探し求めている人たちの目には触れますが、逆にそうでない人には届かない。
逆にフリーペーパーは社会に入りたての若い世代や、自分たちの症状を自覚していない人たちにも届いているように感じています。だからどちらも続けていきたいと思っています。
そもそも、ASD、ADHDって?
ASD、ADHDとは、ともに発達障害のことを指します。
ASD(自閉症スペクトラム障害)とは、コミュニケーションが人と取りづらく、また自分のルールや世界観に固執しやすい性質があります。
ADHD(注意欠陥多動性障害)とは、年齢や発達に不釣り合いに注意力が散漫であったり、落ち着けない多動性やつい乱暴になってしまう衝動性などが見られます。
TENTONTOは実際にASD、ADHDの当事者を中心として集まって作成しているフリーペーパーなんです。
そしてユミズさん、ユタニさんも当事者のお二人。

お二人の症状はどんなものがあるんでしょう?

僕は集中しすぎて、視野が狭くなってしまったりすることが多いですね。
他にも症状としてはせわしなかったり、目を合わせて喋るのが苦手だったり、指先の感覚だけが鋭くてすごく気になってしまったりなどが症状としてあります。

僕はADHDの中でも、あんまり多動な部分はなくて。
結構ぼーっとしてるところがあって、しっかり者のユミズさんとはほんとに真逆な性格かもしれません。いつも助けてもらっています。

ユタニくんはぼーっとしているように見えて、急に面白いことを言ったり、アイデアマンなところもあったりして。
私がお話してて思った二人のイメージ

なんだかちょうどバランスの良いお二人ですね。
こんなにたくさんの人を集めてTENTONTOを作成されているし、今のところコミュニケーション能力が低いなんて全く思えません…!
そういったお二人の症状はASD、ADHDの症状の中ではメジャーなんでしょうか?

そうですね!人と目を合わせないっていうのは赤ちゃんでも起こる症状なんです。
他にも、遅刻が多いとか忘れっぽいとか、テレビの刺激が強く感じるなんかは典型的な症状です。
こうやってお話をしている中でASDやADHDの症状に気づくことはありませんでした。
コミュニケーションが苦手な人も、この音が嫌いって人も、辛いもの好き〜って人も、普通にいますよね。
でもそんな何でもないように感じる症状が人より過敏、または鈍感なことがASD・ADHDの特徴なんだとか。

自覚症状はいつからあったんでしょうか?

僕は小学校に上がったくらいですかね…
「あれ?自分ちょっと周りと違うんじゃないか?」みたいな。
具体的には、なんか周りと考えてることが違う気がするとか。自分だけがうまく喋れなくて、表現とかが苦手だなってことがあって。


あとは注意欠陥。宿題を忘れた…なんていうことが周りと比べてすごく多くて。

小さい子は、何かがいやなときや苦しいときにそれが何なのか説明できない。
そんな目に見えない苦しみが感覚の違いとしてストレスになります。花粉症みたいな感じですかね。
でも本来成長するにつれてそんな感覚は無くなっていくんです。発達するので。
その発達が遅れたり止まったりするのが発達障害ですね。

幼いがゆえに苦しんだり困ったりしやすいんですね。
本人も「なんかやだな」「なんかしんどいな」とあっても明確にできず、また自覚しにくいんです。当事者でもわかりづらいものなので、それを共有したいっていうところにつながっていますね。
時間の感覚もそれぞれ?キーワードは“感覚の違い”
「自閉症スペクトラム障害(ASD)」の”スペクトラム”は、連続性という意味。
症状が一つあるという人から、二つある、三つある、そういったグラデーションの連続という意味で、白黒はっきりさせにくい症状ともいえます。
小さいような大きいような、様々な感覚の違いがあることをTENTONTOは伝えています。

私はめちゃくちゃ辛いカレーとかが好きなんですよ。でもそれは一つの症状として、舌の感覚が人より鈍感だから。普通の人の「美味しい」と違うというのは、それも感覚の違いですよね。

感覚の違いがあるってことはどんな人にも言えることのはずなのに、ストレスに悩ませられやすいのがADHD、ASDの当事者たちで、自分もその一人なんです。

最新号のNo.8ではメンバーでスノボーに行ったんですが、全員初心者で、一人を除いて発達障害の当事者です。

それって…普通の人でも大変ですよ!(笑)

そうなんです。
でも僕たちASD、ADHD当事者は、団体行動では特にそれぞれのキャラクターが出てくるんだなと思いました。
時間の感覚の違いが人一倍、しかもそれぞれ違うっていう。
まずは出発のバスも一人乗れなくて…(笑)
集合写真もなんとか撮れたって感じでした。

僕なんかは上手く滑れないのにリフトまではみんなと一緒に上がっていって、降りれなくなってユミズさんに助けてもらったり。やっぱりユミズさんはリーダーシップがあります。

なんか普通に楽しそうな話だな…!

みんなやりたいことを自分の感覚でやってしまうので、みんなバラバラになってしまいスノボーは二時間も滑れなかったんですが、とても楽しい思い出になりました!
TENTONTOが提唱する「センサリーデザイン」とは

TENTONTOの中で、センサリーデザインというものを解決策としてよく書かれていると思います。
でも私、実は読んでみてもよくわからなくって…

日本ではあまり知られていないものなんですが、センサリーは”感覚の”って意味の言葉です。
発達障害の子どもの癇癪や苦しみを取るために、「少しリラックスしよう」「ちょっと元気になろう」と視覚や聴覚、触覚などの感覚刺激を調整する、欧米、特にイギリスでは盛んなデザインの方法ですね。

全ての人にそれぞれの感覚があるんだよっていう考え方が根底にあって、それぞれの感覚の違いの溝を埋めてくれる助けにもなるんです。
生活する中での様々な感覚が一般人よりも鈍感であったり、逆に過敏であったりするASD & ADHDの症状。
一般人よりもストレスを感じやすい彼らを、ライフハックの意味で人それぞれの感覚のミゾを埋めていく。
そんな観点から再設計していくセンサリーデザインをTENTONTOでは提唱しています。
人それぞれの感覚のミゾを埋めていくセンサリーデザイン
日本ではまだまだ聞きなれない言葉ですが、欧米では子ども向けのおもちゃとして”センサリートイ”が普及していたり
その言葉はどんどん浸透しているとのこと。
Wikipedia:Sensory design(https://en.wikipedia.org/wiki/Sensory_design)

具体的にどんなものがあったりするんですか?

例えばタイトルにもなっているテントもそうですね!暗室のような小さな空間を、部屋の角に設置したりとか。
フリーペーパーの名前の由来にもなっているテント

新しい考え方なので、まだ日本では『コレが決定版!』みたいな事例はないのが現状。

でも海外ではありますよ!
「スナッグベスト(Snug Vest)」という、浮き輪のように空気でシュシュッと膨らむベストがあって、子どもがなんだかぐずるときなどにそれを着せると抱きしめられているような感覚で落ち着いたり。
他にも心拍数を測るスマートウォッチみたいなもので、人が慌てるのを察知して「落ち着いて」って呼びかけてくれるものとか。
画像出典元:Snug Vest http://www.snugvest.com/

なんだか気持ちがわかる気がする!

日本でも、センサリーデザインになりうるものといえばノイズキャンセリングイヤホンがあったりします。音が気になる人はずっとつけていたり。また、ASDの代表的な症状で人と目が合わせられないというものがあって、サングラスやメガネを愛用したりもしますね。

みなさん様々な工夫をしながら、自身の症状と向き合っているんですね。

スマホもそうですね。

えっそうなんですか?

そうなんです。タスク管理アプリなどで忘れ物を減らす工夫もできますし。また、なぞったところがふわっと光ったり五感を刺激するアプリがあって、子どもはこれで落ち着く気持ちになったりもします。
TENTONTOが目指すもの

TENTONTOがこれから目指すものってなんですか?

しんどくて、家から出れないっていう人もいっぱいいると思うんですよね。
そんな人たちがセンサリーデザインを使ったプロダクトで、ちょっとでも安らげるようになったらいいなと思っています。

お互いに勇気が求められることなんです。
「こんな自覚症状がある」と言い出すことも心の強さが求められる。言えたとしても、相手が”障害”というものをすごく大きなものとして捉えてしまい、受け入れられないこともある。
”障害”という言葉がとんでもなく大きいハードルになってしまっています。

でもネットなどではASD、ADHDの認知度は上がっているように感じているのですが…?

広がってはいるけれど、当事者同士のコミュニティ内では卑屈になってしまいかねないと感じていて。
サイトなどで発達障害の情報を見ていても、そこに解決策である”センサリーデザイン”な部分が見落とされているのではないかな、と心配しています。

発達障害には頑張ってもできないことがあって、でも工夫することでうまく生活していけるようになるし、選択肢を広げていくこともできる。
そういうところまで僕らはいきたい。

TENTONTO発信でコミュニティなんかも考えているってことでしょうか?

そうですね!制作メンバーもとても増えましたし、似たような症状の人同士で『こういう困ったことがあった』とかを話し合えたら、とミートアップの構想を練っている際中です。

僕はアプリとかネットサービスを将来的にできたらいいなと強く思っています。
海外では、マインクラフトのサーバーを自閉症の子たちが集まれるように開放し、ゲーム内では落ち着くことができるという自閉症の子たちを支援している人もいるんですよ。

個人でやろうとすると視野が狭くなりがちだったりするのですが、TENTONTOは雑誌のように、いろんなものをミックスした「メディア」という形で新しい可能性を作っていきたいですね。
発達障害でない人も関わってくれてますし、そういった意味ではレアな活動をしていると思っています。

チームワークの力を感じてますね。
webマガジンもそうだし、一人で情報発信していると寂しさや卑屈さで潰れてしまいかねない、部分もあると思ってます。チームでやればそういった部分はカバーできる。コミュニケーションはみんな苦手なので大変ですけど(笑)
もしも自分が発達障害だと思ったら
最後に、TENTONTOを読んだみなさんへしてほしい次のアクションを聞いてみました。

まずは、落ち着いて、丁寧に調べて欲しい

???

これを読んで、発達障害のことをちょっとでも知って、焦ったり騒いだり、逆に突き放したり。いろんな反応をすると思うんです。それに理解していくにはかなり難しいことだと思うんです。
だからまずは冷静に受け止めてほしい。

障害という大きなハードルと向き合うのは、長いスパンでの話になってくると思うんですよね。慌てる必要はないし、慌ててはいけない。腰を据えてゆっくり向き合っていきましょう。

医療機関での診断も三ヶ月待ちとか…社会問題になってて、改善も長い期間で考えないといけません。

深い話にはなるんですが…いったん、他人と比べるのはあきらめる。
勇気のいる行為なので、その勇気を活動を通して伝えていければと思っています。
「感覚の違いは誰にでもあること」
今回お話を聞かせていただき、私自身、今まで考えているようでそうではなかった感覚の違いについてより深く意識することができました。
しかも、一度聞いただけでは理解できないくらい、想像をはるかに超えた初めての世界です。
最近では大人の発達障害なんていうのもあるとネットで話題になることも多いですね。
「アスペかよ〜」「私コミュ障だわ…」
そんなツイートを見かけることも多いです。
「人とは違う感覚を持っている」ことはネットを中心に、確実に広がってはいます。
だけど、現実はまだまだ理解が足りてないのかもしれないなと思いました。
このフリーペーパー・TENTONTOはそんな発達障害で苦しむ人たちに、
センサリーデザインという一つの解決策と、新しい価値観を発信しています。
そんな揺るぎない覚悟がみなさんの目を惹きつけてる理由なのかもしれません。
TENTONTOのお二人、本当にありがとうございました〜〜〜〜!
TENTONTOの詳細情報
ASD & ADHD Magazine TENTONTO
配布地域:東京を中心とした本屋さんなど。
詳しくはこちら(http://tentonto.jp/?page_id=297)
発行間隔:年4回発行(季刊誌)
WEBサイト: http://tentonto.jp/
webコンテンツも充実しているTENTONTO。
今後は発達障害の方々のコミュニティとしても発展していくのではないでしょうか!?
これからの展開も期待大なこちらのフリーペーパーは東京を中心とした全国の本屋さんなどで配布されています。
もちろん京都のフリーペーパーのお店・只本屋でも配布しています!
ネットでも読むことができちゃうのでまずはこちらのページから読んでみて下さい。